死ぬまでにあと50回は観るタイプのゾンビ映画『サンゲリア』

『サンゲリア』こぼれ話

『サンゲリア』という邦題の意味

どうも。ゾンビ書房店主の「ふししゃ」です。
今回は超傑作古典ゾンビ映画『サンゲリア』をご紹介します。

『サンゲリア』といえばまずはこの謎の邦題について触れずにはおれませんよね。

そもそも『サンゲリア』の原題は海外では『Zombi 2』というものが使われています。
それがどうなって『サンゲリア』などというキッカイなタイトルになったのでしょうか?

この奇妙な邦題の由来、実は結構テキトーな理由からきておりまして、【“流血”を意味するイタリア語の“サング”】+【ダリオ・アルジェントが1977年に製作し、日本でも大ヒットを飛ばした傑作ホラー映画『サスペリア』にあやかった語尾】=サンゲリア というのが定説です。

いち、にい、サンゲリア♪ にい、にい、サンゲリア♪というワケです。

公開当時のキャッチコピー「決してひとりでは見ないでください――」はあまりにも有名

話は逸れますがこの『サスペリア』、残酷描写と強烈な内容からなんと映画を観てショック死したら1000万円支払うという「ショック死保険」がつけられていました笑! 広告としてとても面白いですよね。

こうしてヒット作のサスペリア風に語尾をイジくった結果『サンゲリア』というタイトルになったわけですが、Wikipediaには“一般には意味不明ながらも語感の不気味さでヒットに貢献”したとあります。

言われてみればたしかに「なんだこれ…?」と気になるタイトルに仕上がっている気がします。それに加えてショック死保険。もう観ないわけにはいきません!

タイトルをめぐっての裁判沙汰

冒頭で少し触れましたが、『サンゲリア』の原題が『Zombi 2』(「ZOMBIE」ではなくて「Zombi」=“E”がない)というのをみてもわかるように、本国イタリアではロメロの『ゾンビ』(原題『Dawn of the Dead』)の続編を思わせる戦略で集客を図りました。

※ちなみにですがイギリスでのタイトルは『生肉を食うゾンビ』=“ZOMBIE FLESH EATERS”です。このタイトルについてピーター役の主演イアン・マカロック「恥ずかしい」と語っています笑

こうして『サンゲリア』は『ゾンビ』の世界的な大ヒットを受けて製作されたワケですが、勝手に「2」を謳っちゃうあたりすごいですよね。しかしながら笑いごとでは済まされない事態が起きます。

このタイトルをめぐってアルジェントらと裁判になってしまうのです。

結果的には凄腕の映画専門弁護士マッサーロ氏のおかげでフルチ達が裁判に勝ちましたが、もし裁判に敗れていたらどうなっていたのか。もしかしたらゾンビ映画の歴史が少し変わっていた…かもしれませんね。

ちなみにこの裁判ではゾンビという言葉が18世紀に使われていた事を証明したことで勝ったそうです笑

なお、プロデューサーのファブリッツィオ・デ・アンジェリス氏は当時の勝訴を振り返り、「『ゾンビ8』でも『ゾンビ3』でも誰でも作れた」なんて語っています笑 そして現代において実際そんな感じになっているのが面白い。

このあたりの顛末については『サンゲリア 製作35周年記念HDリマスター究極版』の特典映像に詳しく収録されていますので、興味のある方はぜひ買って観てみてください。めちゃくちゃ面白いです。

『サンゲリア』の見どころは?

グロゾンビマシマシ!

見どころはなんといっても独創的なゾンビの造形でしょう。

イタリアの特殊メイクアーティスト、ジャンネット・デ・ロッシによるゾンビメイクは本当に素晴らしいです!

ジャケットにもなっている通称「ワーム・ゾンビ」なんかは一度見たら一生忘れないインパクトがありますよね。もし「世界十大ゾンビ」なるものがあったとしたら、間違いなく名を連ねる名ゾンビだと思います。

上述したようにロメロの『ゾンビ』に続く形で製作された本作ですが、ジャンネット・デ・ロッシ氏曰く、ロメロのような顔の青白いゾンビは作りたくなかったそうです。

サンゲリアのゾンビについては自称“サンゲリアファン代表”のギレルモ・デル・トロがとてもわかりやすくその魅力を(ヲタク特有の早口語りで笑)語っています。

ロメロ映画のゾンビは新しい死体だ 青ざめる程度に腐っているだけで 死んでまだ時間がたってない でもこっちのゾンビは…現代のゾンビの定義を作った腐って朽ちるゾンビだ これが定義を明確にした 気配があり臭いもあり実体がある

『サンゲリア 製作35周年記念HDリマスター究極版』特典映像 「“サンゲリア”ファン代表! ギレルモ・デル・トロ」

そう!まさにこれなんですよ!実体がある。

すぐそこを死臭を漂わせながら歩いている気がするんですね。

メイクの特徴としては、俳優に直接粘土を塗り、耳の位置を上げたり、鼻を下げてみたり、眉毛の上にコブをつくったり、髪にも粘土でだんごを作ったりして立体感を出したそうです。

© 1979 Zombi 2, Co.,Ltd. All Rights Reserved.

外はパサパサ

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中はジューシー!


『サンゲリア』のゾンビたちはただ“グロい”だけでなく五感にうったえかけてくるリアルさが魅力です。

ゾンビ映画史上最高の冒頭シーン

さて、『サンゲリア』の魅力を語るとついその独創的なゾンビの造形の話になりがちですが、脚本もとても素晴らしいのです。

まずは冒頭のシーンです。
この映画はニューヨークから始まります。

© 1979 Zombi 2, Co.,Ltd. All Rights Reserved.

一艘のクルーザーが湾に流れ着く。
穏やかな晴天のニューヨーク。
船に人は乗っていないようだ。
船上は荒れていて物が散乱している。
カラカラと舵輪が虚しく回る音が波の音とともに聞こえている…。

この冒頭のシーン、やけに印象に残るんですよ。
なんの変哲もないシーンなんですがとても雰囲気があります。
その秘密を本作の作曲家ファビオ・フリッツが語ってくれています。

冒頭の船のシーン この時点で普通なら音楽が流れている でもこれでは音楽じゃない 効果音が緊張感を高めた 遠くでサイレンが響きよく晴れたニューヨークにそびえる摩天楼 この風景自体がサスペンスを高めている ルチオは恐ろしい話を風景だけで表現できた

『サンゲリア 製作35周年記念HDリマスター究極版』特典映像 「墓場に漂うメロディー作曲家ファビオ・フリッツ」

このシーンから感じたのはまさにこれでした。
風景自体がヤケにサスペンス的なんですよ!

フルチのホラーセンスがいかんなく発揮されたこの冒頭シーンは本当に素晴らしいです。

また、この『サンゲリア』という作品、ニューヨークではじまり最後はニューヨークで終わります。

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ちなみに、ゾンビたちが橋を渡って街に流れ込んでいく印象的なとても有名なこのラストシーンですが、なんとブルックリン橋でゲリラ撮影されたというのですから驚きです!

許可をとらずにゾンビメイクを施したイタリア人たちがバンで乗り付け「よっしゃ撮ったるで!」と意気込んで見事に盗み撮りに成功…いやぁすごい!

脚本家のサケッティは素晴らしい決断をした 物語の輪が閉じるようにNYで始まりNYで終わる 忘れてたNYに戻って大ショック 感染が広がる前兆だ

『サンゲリア 製作35周年記念HDリマスター究極版』特典映像 「“サンゲリア”ファン代表! ギレルモ・デル・トロ」

この円環構造が物語に不思議な魅力を含ませています。
脚本家サケッティの手腕だと思います。

強烈インパクト“デブゾンビ”!

さて、冒頭のヨットのシーンに戻りましょう。

通報を受けた2人の港湾警察が不審なその船へ乗り込みます。
荒れ放題の船内、テーブルの上には腐った料理、そして布に包まれた人間の腕…。
不穏な空気が最高潮に達したその時、“アイツ”が登場する!

© 1979 Zombi 2, Co.,Ltd. All Rights Reserved.

さあここでもデル・トロニキに登場してもらいましょう。

史上最強の太ったゾンビ 元気だ 見るからに飢えてない ロメロのと違ってパンチがあってきっと船にいた全員を食った デメター号のドラキュラみたいだ 撃たれて海に落ちるけどこれが未来の不安を暗示する 感染源が海に落ちたのかも

『サンゲリア 製作35周年記念HDリマスター究極版』特典映像 「“サンゲリア”ファン代表! ギレルモ・デル・トロ」

「見るからに飢えてない」という表現は笑いましたね。「きっと船にいた全員を食った」とか本当にアッパレなヲタク的想像力に脱帽です笑

このおデブちゃんゾンビについて、特殊効果チームの1人ミレッラ氏がこんなこぼれ話を語っています。

デブゾンビにメイク中 なにか足りないとカツラを被せたところ それがおかしくてトラーニは部屋を出て30分笑い続けた 俳優の前で笑うのは失礼だから ジャンネットには怒られた

『サンゲリア 製作35周年記念HDリマスター究極版』特典映像 「ゾンビ・イタリアーノ ー特殊効果の舞台裏」

ジャンネットがしっかり怒っているところもなんか面白いです。
しかしあのゾンビにカツラを被せたら、きっとただのコメディゾンビになっちゃいますよね笑

さてさて。
いよいよこのおデブゾンビが警察を襲うシーン。

この映画の記念すべきファースト・バイトはどんなでしょう。

ヨットのクローゼットからゾンビが飛び出すシーンは今なら“派手にやろう”となるけれど これは違う 途中から音楽に変わるけど効果音に近くテーマでもない こうした勇敢な選択で監督の偉大さが分かるよ

『サンゲリア 製作35周年記念HDリマスター究極版』特典映像 「墓場に漂うメロディー作曲家ファビオ・フリッツ」

ここでもまたフルチのホラーセンスが光ります。
ゴテゴテしく盛り上げるのではなく、どうすればサスペンスを高められるかをとても冷静に判断していると思います。まさに“勇敢な選択”だと思いますね。

よく噛んでよく食べる!

サンゲリアのゾンビについて、もう少し詳しく見てみましょう。

ピーター、アン、ブライアン、スーザンの4人がマトゥール島のメナード医師の自宅でゾンビに遭遇するシーンです。

© 1979 Zombi 2, Co.,Ltd. All Rights Reserved.

有名な“眼のシーン”のあと、メナード医師の妻をゾンビたちが食べるのですが、みんなよく噛んでよく食べる!

なんというか、ロメロのゾンビと違ってお上品に食べてる感じがするんですよね笑 ソローっと手を伸ばして内臓を一掴みその後モグモグとやる、この一連の動作に優雅さがあります。

このシーンの裏話も面白くて、特殊効果チームのジノ・デ・ロッシ氏の妻がシェフだったようで、劇中の内臓はすべて彼女の手作りらしいです笑

本当に食べられる内臓風の何かをエキストラにゾンビに食べさせて撮ったワケですが、演者たちは気味悪がって遠慮がちにモグモグとやるばかり。

それを見て怒ったフルチ監督は、エキストラに対し猛烈に怒っていたそうです。「食え食え!」と怒鳴り、撮影後に気持ち悪がって食べたのを吐くとまた怒る。そしてまた鬼の演技指導「違う!お前ら!本当に食うんだ!」と笑 

フルチ監督の厳しさについては、撮影クルーの全員が語っているほどです。中には「イジメの常習者」と言う人まで…。

『サンゲリア』の裏方話まで含めると大変な分量になってしまうため、このあたりのことについてはまたまた別の機会に記事にしようと思っております。

狂気!伝説のサメvsゾンビ

この映画には数々の名シーンがありますが、なかでも目を疑うシーンが海底でゾンビがサメと戦うシーンです。

© 1979 Zombi 2, Co.,Ltd. All Rights Reserved.

この距離でサメと対峙!思わず演者も及び腰になります笑

© 1979 Zombi 2, Co.,Ltd. All Rights Reserved.

サメに抱きついて噛みつこうとするシーン。凄まじすぎる!

もう本当に狂気としか言えないのですが、この撮影裏話もすごいんです。
どうやって撮影したかというと…。

サメのシーン エサを撒いたりして数日サメを待った 2〜3日目の夜にエサに食いついた サメをボートを周回させて疲れさせた 疲れたところでチームの2人が海に入りサメをグルグル回した ここで幸運だったのは ゾンビのメイクの粘土をラテックスの層で覆ったこと 粘土の被膜として粘土が溶けて染み出しそれが周囲に漂ったのが最高の効果になった

『サンゲリア 製作35周年記念HDリマスター究極版』特典映像 「ゾンビ・イタリアーノ ー特殊効果の舞台裏」

サメをグルグル回す!? 一体なにをやっているのやら笑

しかしこういった伝説的ともいえるシーンをみると「本当にすごいものを撮って見せちゃる!」というフルチ監督の情熱を強く感じますね。

おわりに

いかがだったでしょうか?

今回はルチオ・フルチ監督の『サンゲリア』をご紹介しました。

なぜ本作が傑作として語られるのか、それにはさまざまゆえんがあると思いますが、私の考えを今一度まとめると以下のような感じです。

①随所に光るルチオ・フルチのホラーセンス
②“現代ゾンビ”を定義づけた素晴らしい特殊効果
③ロメロの二番煎じにならない独創的な脚本
④監督の強烈な個性や撮影にまつわる逸話の多さ
⑤限られた予算で工夫を凝らし撮影された名シーンたち

こんなところでしょうか。
「ただのグロめのゾンビ映画でしょう?」という印象しかお持ちでない方には是非観てもらいたい傑作ゾンビ映画です。

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